南米パタゴニア氷河で冷凍動物発見 一万年前?:投稿(山崎慎一郎:原動S31卒)

山崎慎一郎(昭31年原動)

 教育機関での41年の勤務を終え、支えてくれた妻への慰労の気持ちとして、長男が赴任していたチリ、サンチャゴヘ旅した時のことです。

 南アメリカ大陸南端部のパタゴニアには、南極、グリーンランドに次ぐ面積の氷河がある。氷河は、太平洋からの強い湿った風が、アンデスの山並みに当たって多量の降雪となり、この積雪の重みで粒子同士が連結し、そして融解、再氷結を繰り返すことによって、直径数センチの単結晶の氷と転化して形成されたものである。氷河は年間を通じて、上流部での涵養、下流部での消耗が活発で,滑る動きが早い。この中の一つ「ペリト・モレノ氷河」は、全長約35km、表面積257平方km,先端部の幅は約5km、高さは60~100mもあり、青白く輝く氷の先端部では,巨大な氷塊が轟音と共に湖に崩落している。

 今回、カラファテの町からバス、クルーズ船と乗り継いで、この氷河の端に上陸した。ガイドは、英語とスペイン語の二組に分かれたので,英語グループの方に加わった。説明を受けているとき、一寸抜け出して、写真を撮って戻ってみると、グループは、後続のスペイン語ガイドグループだった。尋ねると,英語グループは、先の方に進んでしまったとのことだっだ。まさか、置さ去りにされるとは、考えもしていなかったので、慌ててしまった。やむなく、スペイン語グループに加わることにした。アイゼンをつけて貰い、氷河に登ると、あちこちに裂け目があって、その下の方では、溶けた水が大きな音を出して流れていた。裂け目に落ちたりしたらと、恐怖心に駆られた。氷河の表面も、融解しており、所々に小石とか、黒くて小さい木の葉が顔を出していた。きれいな石でもないかと、下ばかり見て歩いていたら、表面から2,3センチ位の下に、黒くて一寸大きなものが目に入った。何だろうと、足で氷を削ってみると、小さな動物と分かった。大きな声で叫ぶと、先方を歩いていた人が、引き返して来て、ナイフで、この動物を掘り出し、「ラット」だと言った。大きさは、手の掌の中に収まってしまうものだった。この氷河は、1万年もかかって流れているとの説明だったので、咄嵯に,一万年前のものかと思った。そうでないにしても、これは、学問上の貴重な発見かも知れない。持ち帰って、研究資料として、大学の動物学教室とかにあげられないものかと思った。しかし、この遠い所から、持ち帰られるものではないとあきらめて、写真の撮影をすることにした。グループの人達は、どんどんと行ってしまうので、急いで、手の掌に載せたものと、氷の表面に置いたものを撮影した。(写真には拡大したものを示す。)今では、この「ラット」も、崩壊した氷と共に湖に沈んで、魚の餌食になってしまったことだろう、と考えると、ああ、何と勿体ないことをしてしまったと、今でも思っている。

写真を撮り終え、先方を見ると、グループの姿が見えない。慌てて追いかけた。一山越えると、先方で,一同が集まって、グラスで何かを飲んでいるのが見えた。そこは、氷河トレッキングの終点だった。ここでは、用意されていたシャンペンとケーキで祝杯を挙げていた。遅ればせながら仲間に加わった。「今日は私の妻の誕生日」と言ったら,一同から歓声が上がり、そして「ハッピバースディ」の唄を歌い出してくれた。外国人は何とも陽気である。平成12年12月25日、62才となった妻は大感激した。これで、妻への慰労の目的が果たせたと自己満足した。

[H16-03-05受理]